満ち足りてるのにサースティ、メジャーな遊び人が選んだラヴ・ホテル

先週のラヴ・ホテル探訪記は、ついつい悪乗りして、中学生の社会科見学になってしまいました。今週は、せめて、まともな大学生のレポート風にはなるよう、頑張《がんば》ってみます。

このところ、僕《ぼく》のまわりにいる男の子や女の子の間で、ラヴ・ホテルへの回帰現象が起こっています。外人モデルや大使館員の多い六本木のディスコ、ネオ・ジャポネスクや、六本木野獣会の残党みたいな、お金だけは持ってる中年のオジさんがたむろする西麻布のキャンティあたりへ、大きな顔で出入りしている、所謂《いわゆる》、メジャーな遊び人たちが、であります。これは、一体どういうことなのでしょう。

こうした子たちは、セックスに関してサースティな状態に置かれているのです。もちろん、はたから見たら、満ち足りたセックスの状況でしょう。けれども、当人たちにとっては、「たしかに、お腹《なか》は一杯だし、とりわけ、のどが乾いているわけでもないけれど、でも、なんかこう、もうちょっと、のどが潤《うるお》ったような感じになってみたいな」、こうした気分なのです。“出来れば、もう一杯”といった意味合いでのサースティです。

高校生の頃《ころ》から、ペロペロちゃんやグリグリちゃんをしている彼らや彼女らは、結構、その相手の数は多いはずです。また、自分と同い年もあれば、年上も年下も、って具合でしょう。場所だって、相手のお部屋、シティ・ホテル、ラヴ・ホテル、リゾート・ホテル、車の中。バリエーションに富んでいます。それは、満ち足りている、ってものでしょう。けれども、どこかサースティなのです。

そのサースティに思える自分らのセックスに“もう一杯”を加えるため、ラヴ・ホテルを選択しました。もちろん、シティ・ホテルを使うだけの余裕はあります。ダイナースやアメックスの家族カードを持っているからです。金銭的理由に基づく、ラヴ・ホテルへの回帰現象ではありません。

もしかしたら、知ってる誰《だれ》かに見つかっちゃうかもしれない、あるいは、ラヴ・ホテルという言葉が持つ、秘め事とか後ろめたさを連想させる、その雰囲気《ふんいき》が、逆にセックスにおける自分たちのサースティな気分を幾らかでも解決してくれるのでは。あまりにも、アッケラカンとした明るいペロペロちゃんやグリグリちゃんを実践してきた反動として、そう思い出したのです。

けれども、とっくの昔に生理が終わっちゃったオバアさんが、魔法瓶《びん》とお茶菓子を持って来て、「どうぞ、ごゆっくり」なあんて言い出しかねない雰囲気のラヴ・ホテルは、パスしてしまいます。オッシャレーな気分になれないからです。確かにそこはラヴ・ホテルだけれど、でも、かなりの部分、シティ・ホテルやリゾート・ホテルのノリがある。こうでなくては合格しないわけです。

考えようによっては、これは極めて思い上がった行動かもしれません。文化の香り漂う杉並《すぎなみ》区あたりに住んでいる、ある若手の文芸評論家が、その精神的優越感を捨てることなく、「でも、下町の谷中《やなか》あたりにね、仕事場を持ってみたい気もするんですよ」と、得々とした表情で語ったのと同じことだからです。

杉並区とは別の意味で、これまた文化の香り漂う、谷中という地区もいいな、と思っている件《くだん》の評論家の頭に、同じ下町でも下水処理場のある足立《あだち》区の中川や江東区の新砂といった地名は、多分、最初から選択の対象として入って来なかったように、僕のまわりにいる子たちは、床が板張りで、太陽がサンサンというラヴ・ホテルだけが、行くことを許せちゃう場所なのです。

「『デートの際の食事代を節約してでも、バスのないレンタルルームよりはラヴ・ホテルへ行きたい』、そういう風に思ってる人たちとは、私たち、違うの」

当然という顔をして、こう叫ぶ、僕のまわりにいる子たちは、ですから、あくまでも、オッシャレーなファッションとしてのラヴ・ホテルを選択していることになります。なるほど、ふざけたお話ではあります。けれども、これまた考えてみれば、今日、少なくとも目先の生活は豊かになった私たちの行動は、そのすべてがファッションでしかないのだとも言えるのです。

そうして、実際、オッシャレーなラヴ・ホテルへお出かけしているのは、「行こうと思えばシティ・ホテルにも行けるんだけれど、わざと、ラヴ・ホテルへ来ているの」という屈折した差別意識からだけではなくて、この他《ほか》にも、ちゃあんと理由があるのです。ベッドとバスルームが広いことです。

シティ・ホテルを利用する人たちの大部分は、まともな利用であれ、よこしまな利用であれ、ベッドとバスルームさえあればいいわけなのです。「大きなライティングデスクが欲しい」などとほざく人は、ホテルに泊まると、もうそれだけで上手な文章が書けるような錯覚を起こしてしまう、どこかの小説家くらいなものでしょう。

なのに、多くのシティ・ホテルは、お世辞にも広いとはいえないバスルームと、レギュラーサイズのツインなりダブルなりのベッドです。「バスとベッドが広いことを、お客は望んでいる」、この事実に気がついたホテルマンは、インペリアルタワーの客室において、それを現実化させた帝国ホテルの犬丸一郎氏だけでした。

そうして、ラヴ・ホテルは壁が厚いのです。シティ・ホテルと違って、隣室へ声が聞こえてしまうことはありません。万が一、聞こえたとしても、それはそれで、別段どうってことでもないわけです。経験を積む中で、男の子も女の子も声が大きくなってしまった僕のまわりの子たちにとって、それは重要な問題でした。単にオッシャレーなラヴ・ホテルをファッションとして味わうだけでなく、ちゃあんと、実も取ってしまう。メジャーな遊び人たちを見ていると、おもしろいことを知ることが出来ます。

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