ニューオータニ屋外プールのシーズン・パス値上げは新中産階級への“挑戦”だ

六月一日から九月八日までオープンしているホテルニューオータニの屋外プール・シーズン・パスは、今年、一〇万円というプライスです。多分、心理的サイフに基づく一般的反応は、「高いなあ」。これでしょう。ゴルフ場の会員権が何千万円もし、テニスクラブの会員権だって、一〇〇万円以上するところが、ごくごく普通に存在するのが今日的傾向だとは言っても、やはり、です。なんてったって、ワン・シーズンだけのお値段なのですから。

他のホテルの屋外プールは、どうでありましょうか? 東京プリンスは、全日会員五万円、平日会員三万円。パシフィックは、全日会員六万円、平日会員四万五千円。オークラは、全日会員六万五千円、平日会員四万五千円。市民プールに通ってる皆さまからすると、「これだって、高いよ」ってことになるのでしょうが、でも、まだ、ニューオータニに比べれば、です。ちなみに、去年のニューオータニは、六万五千円でした。なぜに、こうした価格設定をすることになっちゃったのでしょう?

理由は、簡単です。お客さんが、あまりにも殺到し過ぎちゃうからです。たとえば、よく晴れて、しかも蒸し暑い八月の日曜日、あなたがガールフレンドを誘って、一日だけの“シティ・ホテルのプールサイドでの優雅なるデート”を楽しもうと、午前一〇時過ぎにお出かけしたとしましょう。多分、あなたは、一人四千円から七千円あまりするビジター料金を払って、ものの五分も経《た》たないうちに、「バーロー。これだったら、二人、延長料金を払ってでも、ラヴ・ホテルの広いバスタブに水を一杯入れて、“大人のコロタン・プール”をトライしてみるべきだった」と、じだんだ踏むことでしょう。

プールサイドのデッキチェアにズラーッと人、人、人、なのです。仕方ないから、床にタオルを敷いて寝転がってる人もいます。豊島《としま》園のジャンボ・プールにて家族でお楽しみの図、と何ら変わりのない光景が展開されているのです。ただ、多少、来ている人たちが、少なくとも、おにぎりを持参で登場するような家族連れではなかったり、パンチ・パーマのおにいさんと、茶色に染めた頂点レイヤード・ヘアのおねえさんカップルでなかったりする。それだけの違いです。

そうして、シティ・ホテルのプールに登場している団塊世代の家族連れはもちろんのこと、アベックや若い女性同士だって、一応、アーベイン風に装ってはいるものの、その実は、丸井の一〇回払いやJCBのキャッシング・サービス御愛用の、まさに目先の小金だけがある新中産階級だったりするのです。日本人と欧米系の白人が同時にチェック・インしようとカウンターへ歩み寄った時に、perhapsというよりは、むしろ、without failという確率で、欧米系の白人を先に接客することで定評のある“民営、新山王ホテル”ホテルオークラの場合でも、去年の夏、正午近くにノコノコとお出かけしたシーズン・パス保有者が、お買い得な夏休みパックで“リッチな休日”を過ごそうと宿泊していた家族連れや若いOLの大軍団で満員御礼となっていたプールに、入場出来ないような事態を何度か経験しました。

元々、上は皇室から下は横丁のおかみさんまでを相手にするというコンセプトの下にオープンした、プリンスやニューオータニのプールが繁盛するのはもちろんです。そうして、階級意識のない民主主義の国、日本においては、だからこそ余計に、ちょうど、終戦直後、国電にくっついていた進駐軍専用車両に潜り込んでは、チューイング・ガムをもらって自慢気に見せていたという人たちと同じように、“租界ホテル”に足を踏み入れることで、「自分は、こうした場にも足を踏み入れることを許された人間である」という一人だけの優越感を味わおうとする人たちが結構いて、それで、オークラのプールも満員御礼となってしまうのです。
ニューオータニが、シーズン・パスのプライスを一〇万円としたのは、こうした状況への挑戦でありました。平日のビジター料金を、去年の四千円から今年は六千円に、週末のビジター料金を五五〇〇円から八千円にしたのも、なんとか、客筋を絞り込んでいきたいという考えからです。もうひとつ、三〇〇人以上は入場させないという新しい施策も進めることになりました。そのかわり、デッキチェアをノー・エキストラ・チャージで三〇〇個、用意してあります。芋を洗うような混雑になったら満員御礼にするのとは、全然、違います。従来から、さすがにタオルは無料だったものの、ロッカーやガウンは有料としていたシステムも撤廃しました。

そうして、新プライスの公表はしているものの、その画期的なサービス内容について、ホテル側からのインフォメーションは、まったくと言っていいほど行っておりません。「来ていただいて、初めて、他のホテルのプールとの違いを知っていただけたらと思います」と語る関係者のその言葉には、大学、短大はおろか高校の謝恩会、日本酒片手にカラオケ大会の結婚披露宴《ひろうえん》、はたまた得体の知れないベンチャー・ビジネスのパーティーだって受注していかねばならない平和な日本のシティ・ホテルが抱える悩みが出ています。

ところで、「この夏、キャピキャピ娘は都市ホテルのプールが大好き」なんて『週刊宝石』の記事も読んでしまった異端派『朝日ジャーナル』読者のためにインフォメーションです。期待してお出かけするのなら、週末でも六五〇〇円と一番安い東京プリンスでしょう。社名を印刷したビニール幕を外側に貼《は》って赤坂プリンス新館を建設していた鹿島《かじま》建設に、「タダで宣伝させるつもりはない」と無地のビニール幕に替えさせた商売人、堤義明氏の方針でプールのなくなってしまった、けれども『JJ』が未《いま》だにバイブルの女子大生が大好きな、その赤坂プリンスから、二、三人でお泊まりのキャピキャピ娘も専用シャトルバスに乗ってお出かけして来るからです。まあ、頑張《がんば》って下さい。

いくつかの考えがあります。

シーズンパスの値上げは、需要と供給のバランスを調整しようとする経済的な判断である場合があります。人気のある施設やサービスでは、価格を調整することで需要を管理し、利益を最大化しようとする傾向があります。新中産階級など、所得水準の高い層をターゲットにした価格設定が行われることがあります。価格を上げることで、高所得者層向けのサービスを提供する意図がある場合があります。

高価格設定は、一部の消費者にとってはプレミアム感やブランド価値を高める効果があります。ニューオータニの屋外プールが高級感や特別感を提供する場として位置付けられ、その魅力を強化する狙いがあるかもしれません。値上げは、施設のメンテナンスやサービスの改善費用を賄うために行われる場合があります。より高品質な体験を提供するためには、投資が必要であり、それに見合った価格設定が行われることがあります。

これらの要因が組み合わさり、ニューオータニの屋外プールのシーズンパスの値上げが新中産階級に向けた「挑戦」とされる理由となっています。

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